最先端研究を訪ねて


【生物物理学】

光がくすりになる!?画期的な手法の開発に挑む

須藤雄気先生

 

岡山大学

薬学部(学術研究院医歯薬学域 薬科学専攻)

 

研究材料(光受容タンパク質・ロドプシン)
研究材料(光受容タンパク質・ロドプシン)

 

◆着想のきっかけは何ですか

 

私達の研究室では「光をくすりにする!?」を合言葉に、光による生命機能の制御・操作の研究を行っています。しかし、光がくすりになると言われても、すぐには信じられないかも知ません。

 

そこで、くすりをかみ砕いて表現すると「生命機能に変化を与えるもの」と言えます。生物と物理の教科書には、物質の分解で得られた化学的な生命エネルギーと、太陽光の照射するエネルギーが載っています。

 

それらを比較すると、太陽光エネルギーは化学的生命エネルギーと比べ、4倍以上も大きいことが分かります。つまり光は使い方次第で、生命機能を変化させるものとして、くすりになり得るのです。

 

 

◆具体的にどのような成果がありましたか

 

私達は、私達の視覚を担う、ロドプシンというタンパク質に着目しています。ロドプシンは目の網膜の中にあり、光の明るさや色を感知する受容体です。様々な生物が持つロドプシンを細胞に移植し、光を当てることによって、微生物の運動をコントロールしたり、脳神経活動のコントロールや、細胞死とその逆の細胞の成長促進などを実現しています。

 

私達の研究室では今日まで、自然界の様々な生物から300種類以上の新しいロドプシンを発見してきました。これらのロドプシンの機能と構造を精密に調べることで、上に示した光による生命機能のコントロール・操作を実現しています。

 

◆その研究が進むと何が良いのでしょう

 

この技術を応用し、光によって病気を治療するという、全く新しい画期的な治療法につなげることを目指しています。光で病気が治るなんて素敵ですよね。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

保健と福祉には、国による差、地域による差、性による差、世代による差など、著しい「差」が存在します。「光」は、地球上に暮らす生き物に平等に届くものです。

 

この光と私達の研究室で扱うロドプシンを組み合わせて、光による病気の治療ができれば、あらゆる人の健康的な生活と福祉の向上につながること間違いなしです。

 

「光」は、地球上に届く安定的でクリーンで安全な「エネルギー」です。この光と私達の研究室で扱うロドプシンを組み合わせて、物質の産生や変換ができれば、世界中どこででも、手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保することにつながること間違いなしです。

 


 この道に進んだきっかけ

研究とは「非常識」を「常識」に変えることだと気づいたことが、研究の道を志すようになったきっかけです。

 

中学・高校・大学と、勉強する内容が難しくなり、また幅広くなっていった時に、何故「勉強」しているんだろう?といつも思い、悩んでいました。そんな時に(高校2年生ぐらいだったと思います)、講談社ブルーバックスの『生物物理の最前線』という本に出会いました。多くの高校で、生物と物理は一緒に履修できませんので「生物物理ってなんだ?」と思ったのが、読みだしたきっかけです。

 

この本に出てくる研究の最前線に触れて、研究とは「非常識」を「常識」に変えることで、「非常識」を実現するために「常識=勉強」が必要なんだ!と気づき、勉強する楽しみと「研究」の醍醐味を知りました。

 


 この分野はどこで学べる?

「生物物理学」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
細胞への光照射実験
細胞への光照射実験
 学生はどんな研究を?

輝く朝日で目を覚まし、道に咲く草花に見とれながら学校や職場に向かい、帰り道の夕日に明日への希望を感じ、夜空に打ち上がる花火の美しさに感動する。これらに共通する『光』は、私たちにとってなくてはならないものの1つです。

 

私達の研究室の学生さんは、「光をくすりへ!」を合言葉に、生物が生み出す光受容タンパク質・ロドプシンの研究を行っています。

 

ロドプシンを発現したヒト培養細胞の調製
ロドプシンを発現したヒト培養細胞の調製
 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・化学・化粧品・繊維/化学工業製品・衣料・石油製品(プラントは除く)

・病院・医療

 

◆主な職種

 

・基礎・応用研究・先行開発

・薬剤師等

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

製薬系・化学系企業に就職した学生は、研究室での研究内容を生かした研究開発業務を担っています。薬剤師として就職した学生も、専門性を生かした薬剤師業務に取り組んでいます。

 


 先生からひとこと

セレンディピティーという言葉があります。単に「幸運」と理解されている方もいるかもしれませんが、私は「歩かない犬は棒にも当たらない」と理解しています。薬学部では、生物、化学、物理学をはじめ、ほとんど全ての生命科学分野を一通り学びます。そこで学んだ知識や経験をもとに、サイエンスという無限の荒野を歩き回れば、必ず棒に当たります。さあ、薬学部で棒探しの旅に出ましょう!

 

 先生の研究に挑戦しよう!

(1)光のエネルギーってどのくらい?:太陽光で水浴をあたためて、温度上昇と体積、水の比熱などからそのエネルギー(ジュール)を求めてみよう。エネルギーの相互変換(光と熱)もあわせて理解しよう。

 

(2)天体の温度を知ろう:熱と光は相互にエネルギー変換可能です。夜空の星を撮影して、その色と、各温度における放射スペクトル(調べる)から、各天体の温度を調べよう。

 


 中高生におすすめ

新・生物物理の最前線 生命のしくみはどこまで解けたか

日本生物物理学会(ブルーバックス)

生命の働きを物理を使って解明する応用学問「生物物理学」の新しい研究について書かれている。内容としては、生物のゲノム遺伝情報の全てが解読されることで何が変わったか、脳と記憶のメカニズムはどこまで解明されたか、細胞より小さい1分子を見ることのできる観測技術で生物はどこまでわかったか、などである。高校では同時に履修できない、生物と物理が混ざり合う研究の醍醐味を、手軽に理解することができる。



生物のスーパーセンサー

日本生物物理学会ニューバイオフィジックス刊行委員会、津田基之:編(共立出版)

生物は、視覚をはじめとする五感などにおいて、外界からの情報を、センサーの働きをするタンパク質でキャッチして認識している。そして生物の体内にも、温度や酸素濃度など様々な情報をキャッチするタンパク質がある。

 

その生物的・物理的なメカニズムはどうなっているのか。本書ではこの仕組みを、生物・物理、さらに化学を結びつけて理解することができる。さらに、生物のセンサーの仕組みを応用した技術も紹介されている。

 



 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

薬学ですね。薬学は、物質を中心に広く理科「生物、物理、化学(地学も!?)」を学ぶ面白さがあります。

 

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

サザンオールスターズ。老若男女に知られている希有なアーティストで、いつも音楽に癒やされています。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

研究室員の成長を見ること。自分よりも若い研究室の教員・学生さんが、色々なことをスポンジのように吸収して成長する姿を見るのは楽しいものです。