Q1.一番聴いている音楽アーティストは?
クラシック音楽。何百年もの間聴き継がれてきた曲は、何度聴いても興味深いものがあります。
最先端研究を訪ねて
【応用分子細胞生物学】
植物の体温調節
自ら発熱して、寒冷環境を生きのびるザゼンソウ ~誰もやったことのない植物の体温調節の研究
伊藤菊一先生
岩手大学
農学部 応用生物化学科(総合科学研究科 農学専攻)
◆着想のきっかけは何ですか
私は、寒冷環境で植物が適応していく仕組みについて研究しています。25年以上も前、研究を始める前に、植物の寒冷適応に関する世界の最先端研究を調査しました。寒冷環境に対して植物が耐えて生きのびる仕組みの研究は、たくさんありました。しかし、植物自ら発熱することによって寒冷環境を回避できる研究は、ほぼ皆無であることが分かりました。
さらに国内外の文献を検索したところ、ザゼンソウというサトイモ科の植物が早春の開花時に、自ら積極的に発熱することが判明しました。この野生植物の群生地なら、わが岩手大学の近くにある!まだ誰も行っていない研究領域を見出したことが、研究を始める大きな原動力になりました。
◆どんなことがわかりましたか
岩手県内のザゼンソウの発熱を調査したところ、この植物の花の一部が特異的に発熱し、氷点下を含む外気温の変動にも関わらず、その体温は23℃程度に維持されることを明らかにしました。
また通常、植物は光合成によって自ら作り出した化学エネルギーを、実をつけるなど生命活動に利用しますが、発熱性植物は、化学エネルギーの一部を熱エネルギーに変える仕組みを持っていることがわかりました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょう
ザゼンソウを含む植物の発熱調節や恒温性の仕組みが明らかになると、ほ乳動物と植物との仕組みを比較できるようになるでしょう。体温を一定に保てるほ乳動物の体温調節は、複雑な神経系の支配下にあることが知られています。
神経系を持たない植物の体温調節の仕組みは、ほ乳動物とは異なることが予想されます。したがって、進化の過程で生物の体温調節機構がいかに獲得されたかという、大きな問題の解決にも繋がると考えています。
気候変動による地球温暖化は、陸上に生育する生物の温度変化に対する適応にも、大きな影響を及ぼすことが予想されます。
植物(ザゼンソウ)の温度調節機構の解明は、環境変化に対する生物の適応戦略の理解に繫がるだけでなく、食料生産などの人類の生存を保証する生物メカニズムとしても、応用ができるものです。
中学生の頃は、放課後に野外へ出て縄文式土器の発掘に夢中になる日々が続いていました。5千年以上も前にこの場所で我々の祖先が暮らしていたことを想像すると、当時使っていた土器を自らの手に持つことの大きな意味が理解でき、将来は考古学の研究者になりたいと思っていました。
その後、岩手大学農学部で、植物が作り出す鉄溶解物質である「ムギネ酸」の発見者、高城成一教授と出会い、ムギネ酸の生合成に関する研究を行う機会を得ました。ムギネ酸研究をきっかけに、生涯研究者として生きていくことを決意しました。
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学生の研究課題としては、基本的に植物の発熱現象に関わる内容であり、教員が指導可能なテーマであれば、どのような課題でも良いと考えています。学部学生には研究の最前線の現場に触れてもらいたいし、修士課程の大学院生には、自分で何か新しい発見ができるようなテーマに取り組んでほしいですね。
博士課程の大学院生には、歴史に堪えるような意義ある研究テーマを、自分自身で設定できるようなればいいですね。研究室における研究活動を通して、科学的なものの見方や考え方を身につけ、それぞれの個が輝く形で、世の中に貢献できるような人物になってもらいたいと考えています。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
公的な研究機関で研究職として活躍している卒業生は、当研究室で博士の学位を取得しています。これらの卒業生の研究室における研究活動は、多くの場合、海外の一流の研究者との共同研究が含まれており、研究者としての国際感覚を養いながら、世界標準の研究指導ができたと考えています。
卒業生の中には、オーストラリアやギリシャなど海外のフィールドで研究を実施し、インパクトある研究成果を挙げた方も少なくありません。最先端技術と思って使っていた技術も、あっという間に古くなってしまう時代です。実験技術についてはその背後にある基礎理論を良く理解した学生が、研究職について新しい手法を使いながら良い仕事をしているように思います。
高校の教科書にも掲載されているDNA→RNA→タンパク質という情報の流れが、様々な細胞の中でどのような分子メカニズムにより実行されているか。また、その調節はどのようになされているかという問題は、従来からの分子生物学の手法に加え、次世代シーケンサーなどを使った包括的、網羅的に調べることが可能な時代となりました。
膨大なデータをコンピューターにより処理し、コンピューターが提示したモデルが正しいのか正しくないのか、実験により確認するような研究も行われています。従来の実験だけでなく、情報科学と融合した研究が主流になる時代はすでに始まっています。情報科学などより広い分野の知識やスキルに興味ある若者が、チャレンジできる分野です。
1.身近な発熱植物の体温を測定してみよう。(難易度中)
説明:ザゼンソウ以外にも、ハスやヒトデカズラなどの花が発熱することが知られています。身近の発熱植物の発熱の様子はサーモグラフィーで測定することができます。調査の際には、群生地の管理者の許可を得た上で、安全に注意しながら取り組もう。
2.発熱に関わるミトコンドリアを調べてみよう。(難易度高)
説明:ミトコンドリアは生物のエネルギー通貨と呼ばれるATPを合成している細胞内小器官です。発熱植物が身近にあれば、ミトコンドリアを取り出してその呼吸を調べてみましょう。
3.生物はどのような仕組みで体温を調節しているのか、調べてみよう。(難易度低)
説明:教科書、参考書、書籍、インターネット等を用いて、哺乳動物の体温調節の仕組みを調べてみよう。神経系を持たない植物の発熱はどのような仕組みで達成されているのだろうか。考えてみよう。
生命科学者になるための10か条
柳田充弘(羊土社)
将来研究者になりたいと考えている若者向けに書かれた本。大学の研究室の様子や、研究者にとっての論文の位置づけなどが分かりやすく書かれており、高校生が読んでも面白いだろう。この本には「旅をしよう」という章があり、意外かもしれないが、研究者にとっての旅の重要性が書かれている。「研究者」という人たちが、何を考えながら生きているのかが分かる。
我々の歩いて来た道 ある免疫学者の回想
石坂公成(黙出版)
アレルギーの原因となる免疫グロブリンE (IgE)発見者、石坂公成・照子博士の半生の記録。「自然科学は、最終的には自然が答えを出してくれるものだから、“ウソ”は科学者にとっては全く意味がないものである。みんなに自分の考えを正直に述べることは、科学者にとって最も大事なことである」と語る。将来研究者になりたいという高校生に薦めたい。
生きること学ぶこと
広中平祐(集英社文庫)
「創造することの愉しさ、喜び-それは自己の中に眠っていた、全く気づかなかった、才能、資質を掘り当てる喜び、自分という人間をより深く認識理解する喜びではないか」。
フィールズ賞に輝く世界的な数学者が、熱く語る。新しい発見をする過程で著者が何を考え、何につまずき、それをどのようにして乗り越えていったかを、追体験できる。常識にとらわれない考え方の実践例を知りたい高校生に薦める。
Q1.一番聴いている音楽アーティストは?
クラシック音楽。何百年もの間聴き継がれてきた曲は、何度聴いても興味深いものがあります。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
黒澤明監督『生きる』。オーストラリアの研究者のご自宅で英語版を見ました。海外の方が賞賛しておりましたが、私自身も外国で日本の映画を見て感動しました。
Q3.大学時代の部活・サークルは?
「農薬問題研究会」というサークルを自らが立ち上げ、少人数で活動をしていました。