◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
我が国は1990年代から電子立国として、国産半導体とその応用電子部品の輸出によって外貨を稼いできましたが、半導体に変わる新しい産業の米として、大型蓄電池による蓄電立国へのシフトが望まれています。
大容量の電気を蓄える大型蓄電池によって、風力太陽光等、出力変動する再生可能エネルギーの電力平準化バックアップ電源として、電力不足を緩和できます。また、新型蓄電池を動力源にする電気自動車やヒューマノイド等、我が国の新産業を牽引し、外貨獲得にも貢献できるだけでなく、我が国のハイテク産業のアキレス腱と言われてきたレアメタル依存度を低減することで、輸入頼りだったサプライチェーンの安定化(経済安全保障)にもつながります。
日本オリジナルのレアメタルフリーな大型蓄電池の開発によって、福島原発事故以降、慢性的電源不足、財源不足、雇用不足、資源不足にあえぐ我が国の閉塞状況を突破できると期待されます。
◆大型の蓄電池材料の開発で解決すべき課題は何でしょうか
蓄電池や太陽電池などの小型エネルギーデバイスは、そのエネルギー密度や変換効率が最も重要な因子です。ところが電池サイズが大きくなるにつれ、電池に占める材料費の割合が増えるため、むしろコストパフォーマンスがより重要になるゲームチェンジが起こります。
小型蓄電池ではコストや環境負荷度外視で使えたレアメタルも、大型蓄電池ではレアメタルフリーへ、原料材料からの材料設計の根本的見直しが迫られることになります。
さらに、蓄電池の安全性を確保するには内部短絡を起こさないことが前提です。例え内部短絡してしまっても、蓄電池内で発生した熱を素早く外に放熱し、熱暴走を防ぐことができれば、発煙→発火→爆発に至る事故を、未然に防ぐことができます。
しかし、電池の寸法r が大きくなるほど、電池表面積(∝ r2)に比例する放熱量が電池体積(∝ r3)に比例する発熱量に追いつかなくなるため、電池の安全性や信頼性もより重要になります。
また、蓄電池の事故リスクは、蓄電池1本の事故率と事故が起こった時の被害額の掛け算で、簡単に評価することができます。
例えば一般的な電気自動車は、スマホに使われている蓄電池の約10000本の直並列の蓄電池で駆動しています。この時、電気自動車用蓄電池の事故リスクは、スマホ用蓄電池のざっと(10000)2倍という試算になります。
実際にはそうならないよう、電気自動車用蓄電池はスマホ用小型蓄電池よりもあえてエネルギー密度を抑えたり、様々な保護装置による多重防護により、安全確保最優先の設計理念の下で、人身事故を防ぐ必要があります。