Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
次世代エネルギー、地球環境問題、ロボット工学
最先端研究を訪ねて
【細胞生物学】
ミトコンドリアDNA
父方のミトコンドリアDNAが遺伝しない?受精卵の細胞内で起こる長年の謎を解明
佐藤健先生
群馬大学
生体調節研究所
◆研究のきっかけは何ですか
私たちのような性を持つ生物は、まず受精を経て誕生します。受精によって新しい生命が誕生する際、受精卵の細胞では一体何が起きているでしょうか。細胞の中には、膜で仕切られた細胞小器官というものがあります。その1つであるミトコンドリアはもともと別の生き物で、20億年も前から細胞の中で共生しています。ですので、細胞核にあるDNA(核DNA)とは別に、独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持っています。
性を持つ生物では遺伝子は、基本的に父と母の核DNA双方から受け継ぎます。一方で、ヒトなどの多くの生物では、ミトコンドリアDNAは母方からしか遺伝しないことが長年知られており、その仕組みは謎のままでした。
この現象は母性遺伝と言われており、ミトコンドリアDNAの情報をもとに人類の祖先を辿っていくと、アフリカの女性(ミトコンドリア・イブと呼ばれています)がその1人である可能性が報告されています。そこで、私たちはこのミトコンドリアDNAの母性遺伝の仕組みについて解明しようと考えました。
私たちは、とても小さく透明な虫(線虫)の一種を使って、受精卵に入った精子由来の父方ミトコンドリアの運命を調べました。すると卵割が進むにつれ、卵内に入った精子ミトコンドリアが、徐々に消えていくことに気がつきました。
その仕組みを調べたところ、卵内に侵入した精子ミトコンドリアが、オートファジー(自食作用、2016年ノーベル生理学・医学賞)という現象により、分解・除去されてしまうことがわかりました。
ちなみに、卵子由来の母方ミトコンドリアは、ほとんど分解されません。つまり線虫では、受精後に精子由来の父方ミトコンドリアDNAが、ミトコンドリアごと分解されてしまうため、子孫に伝わらないのです。
◆どんな課題が解決されましたか
この新発見によって、ミトコンドリアのDNAが母方だけから遺伝するという、母性遺伝の長年の謎の一端が明らかとなりました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょう
ヒトでも、ミトコンドリアDNAに遺伝子変異を持つ遺伝疾患は、母方から遺伝します。私達の研究は、こうした母性遺伝の仕組みと、その意味を明らかにするのに役立ちます。
また、パーキンソン病などの疾患では、脳内の神経細胞が損傷したミトコンドリアをオートファジーにより除去できないため、神経細胞死が起こります。私たちの研究は、このような一部のミトコンドリアが、オートファジーによって分解される仕組みの理解にもつながります。さらに、生物進化の理解にも役立つことが期待されます。
これらの研究成果は、国際的な一流誌にホットトピックとして紹介され、これらの論文の筆頭著者は文部科学大臣若手科学者賞、女性科学者の会の奨励賞などを受賞し、現在も活躍しています。
身体を調節するインスリンなどのホルモンや、悪玉コレステロール等の分泌や取り込みの仕組みについて研究することにより、生活習慣病の原因究明や改善につながる可能性があります。
卵子の形成や受精、発生の仕組みを研究することにより、卵子の生育に必要な因子や、よりよい生育環境等を探索しています。これらの研究により、不妊治療等に役立つ可能性があります。
中学・高校時代に、お世話になった生命系大学院に通う大学院生の方に、生命の面白さと奥深さについて教えていただきました。宇宙関連の研究にも興味がありましたが、その影響もあり、九州大学理学部生物学科に進学しました。
大学時代の前半は勉強とサークル活動を両立しながら、博多ライフを満喫していました。大学時代の後半に次第に「生命とは何か」「生物を作る細胞とは何か」という点に興味を持ち、研究室に配属されるとともに「細胞の中身がどのように作られ、そのアイデンティティを保っているのか」について研究を開始しました。
九大、東大と進学する度に、一大研究分野を作り出された多くの素晴らしい先生方に巡りあえたことは大変幸運でした。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
◆「キャリアパス対談 第5回:佐藤 健×柳田素子」(日本分子生物学会)
◆「コレステロール調節物質の分泌、群馬大が解明」(日本経済新聞)
◆「群馬大、父方ミトコンドリア消去の仕組み解明」(日本経済新聞)
◆「母性ミトコンドリア遺伝の仕組み解明 群大・佐藤健教授ら」(産経新聞)
私たちの研究室では、生命を形作る様々な細胞内に存在する、各細胞小器官の役割やその間での物流システム、そして形成や分解の仕組みについて研究しています。学生の皆さんは、哺乳類の培養細胞から線虫、マウスといった動物個体そのものを対象に、最先端の顕微鏡や遺伝子、タンパク質解析装置等を駆使して、以下のような研究に取り組んでいます。
1)生命誕生の際、細胞内で一体何が起こっているのか。
2)インスリンなどのホルモンや悪玉コレステロール(LDL)などがどのように作られ、血液中に分泌されているのか、またどのようにして体内の細胞に取り込まれているのか。
3)細胞表面(細胞膜)で働くべきタンパク質が正しく輸送されず、細胞内に蓄積してしまうことにより引き起こされる、遺伝疾患の解明。
◆主な業種
・薬剤・医薬品
・農業、林業、水産業
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・基礎・応用研究、先行開発
・生産技術(プラント系以外)
・宣伝、広報、IR
・その他医療系専門職(臨床検査技師・理学療法士)
◆学んだことはどう生きる?
大学教員、医師、臨床検査技師としての教育、研究業務、食品、医薬品、農業系企業における開発業務等に活かされています。
生命の本質を分子から細胞、そして組織、個体へと各階層をまたいで理解しようとする分野です。生命誕生の瞬間に細胞内の古い成分が分解・除去され、新しい生命体へと作り直される様を、生きたまま観察することができるようになり、改めて生命の神秘さ、奥深さに感動します。
線虫C. elegansを用いての寿命の研究が盛んに行われています。実際に線虫で寿命延長に関連する遺伝子が哺乳類などの高等生物でも寿命延長に重要であることが明らかとなってきています。
線虫のC. elegansは尿1滴からガン患者を見分けることができることが報告されています。線虫が見分けることができる物質や他の現象について調べるのも興味深いでしょう。
分子生物学の軌跡 パイオニアたちのひらめきの瞬間
野島博(化学同人)
DNA二重らせん構造の発見の経緯など、分子生物学のマイルストーンとなった発見が物語のように描かれているので、生物学初心者にとっては面白いと思われる。
ミトコンドリアはどこからきたか 生命40億年を遡る
黒岩常祥(NHKブックス)
ミトコンドリアは、細胞の中に全く独自のDNAを持つことで有名だ。その働きは遺伝に重要なだけでない。生命エネルギーを作り出し、酸素呼吸ができるようにする場となるのだ。ミトコンドリアは、細胞核を持つ真核生物と共生することによって生まれたものとされてきた。今や人間の体の一部となっているミトコンドリアがいつ頃、一体なぜ私たちの細胞に共生したのか、その秘密を探り興味深い。
「人を動かす人」になるために知っておくべきこと
ジョン・C・マクスウェル(三笠書房)
自分自身がなるべき姿、周りの人々に対する対応法、人とのトラブルの対処法などについてわかりやすく書いてあり、社会でうまく生き残るための手段を知ることができる。トラブルを抱えている人、生き方に悩んでいる人、自分自身をまだ客観的に見られていない人にお勧め。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
次世代エネルギー、地球環境問題、ロボット工学
Q2.大学時代の部活・サークルは?
ダンス系サークル
Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
真夏に倉庫の中で大量の絨毯をひたすら広げ、巻く仕事。他は、露天掘りの土木作業。