Q1.大学時代の部活・サークルは?
オーディオ・クラブというものに入っていました。電気工作は得意です。
最先端研究を訪ねて
【結晶工学・結晶成長学】
氷結晶
氷の結晶表面を分子レベルで観察できる顕微鏡を独自開発、スケートリンクの滑りやすさの謎を解き明かす
佐﨑元先生
北海道大学
低温科学研究所/理学院 宇宙理学専攻
◆どのような研究でしょうか
スケート競技のスケートリンクは、なぜ滑りやすいのでしょう。氷は極めて身近な物質ですが、長年の謎がいくつも存在します。例えば氷の表面は0℃以下の温度でも、薄い水膜で覆われており、それによってスケートリンクを滑りやすくしていると言われています。
しかし、その様子をこれまで直接可視化した者は誰もいませんでした。私たちは、氷表面の薄い水膜を、分子レベルの高さの段差まで見分けることができる特殊な光学顕微鏡を、オリンパスと共同で独自開発しました。
◆どんな成果が上がりましたか
この顕微鏡によって、氷と接する薄い水の層の詳しい構造を解明できるようになりました。最も重要な発見は、氷結晶の表面に2種類の薄い水の膜が形成されることを発見したことです。
2種類の薄い水膜は、水同士なのに形が異なるという、結晶物理学の常識を根底から覆す挙動を示します。これまで、スケートリンクの滑りやすさは、スケートの圧力や摩擦が氷の結晶を溶かすためと考えられてきましたが、圧力や摩擦がなくても、2タイプの水の薄膜が“潤滑油”の役割を果たし、滑りやすくしていることを明らかにしました。
なぜ簡単に雪だるまを作ることができるのか。その謎も、水膜が雪の結晶を接着する役目をしているからと、理解できるようになります。
また、土壌が凍結して隆起する凍上現象という、雪国で大きな被害をもたらす自然現象の解明にもつながります。さらに、他の融点以下の結晶材料で見られる現象の謎の解明にもつながります。
様々な光学顕微技術の開発は、自然科学を強力に推し進める上で必要不可欠です。それによって、新たな現象の発見が可能となるわけですから。水は、地上で最も大量に存在する物質です。そのため、固体の水(氷)の成長や融解は、気候変動に直結します。
高校時代は、化学が苦手でした。苦手を克服しようとした結果逆に得意になり、大学・大学院では生物化学を専攻、博士を取得しました。しかし偶然、結晶成長物理学の研究室に助手として拾っていただき、タンパク質結晶の物理を研究していたところ、徐々に光学顕微鏡を習い覚え、光学顕微鏡の開発屋になりました。
そうしているうちに、雪や氷の結晶成長物理学の研究室に准教授として拾っていただきました。雪や氷の結晶の物理を、自分で発明した光学顕微鏡を使って研究するようになり、今に至っています。
これまで、研究内容も分野も大きく変わってきましたが、その時その時の自分の興味と、人様とのご縁を大切にしてきました。人生どうなるか、全く分からないものです。
↑当研究室の村田憲一郎助教へのインタビュー記事を参考にしてしてください
↑雪や氷の様々な不思議については、こちらをどうぞ
1)雪結晶の成長速度の分子レベル計測:
分子レベルの高さの段差を見分けることができる光学顕微鏡を駆使して、雪結晶の表面で分子層が成長する速度を精密に計測することで、雪結晶がなぜ多様で美しい形態を発達させることができるのか、その謎に迫っています。
2)多結晶氷の表面融解:
天然の氷は、小さな氷結晶がたくさん集まった「多結晶」と呼ばれる状態で存在します。多結晶の表面が水膜で覆われる様子を明らかにすることで、自然界で氷表面の水膜がどのような役割を果たすかを、明らかにしようとしています。
3)不凍タンパク質の機能発現機構の解明:
寒冷圏の生物は、体内で「不凍タンパク質」と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出しています。これにより、生物は氷点下の温度でも体内での氷の成長を抑制し、凍死から免れています。そのメカニズムを明らかにしようとしています。
◆主な業種
・コンピュータ・情報通信機器
・建設全般(土木・建築・都市)
◆主な職種
・製造・施工
・システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
システムエンジニアや土木エンジニアとして、様々な業務に携わっています。特に、学生時代に培った「問題解決能力」が活かされています。雪や氷についての基礎知識は、北海道での土木工事に活かされています。
北海道大学・理学院・宇宙理学専攻の修士課程を受験していただくと、修士1年から低温科学研究所の我々の研究室(相転移ダイナミクス研究グループ)に来ていただけます。北大理学部の物理学科が最も近いですが、他大学や他学科(化学、地学など)からの受験も歓迎しています。
水は地上で最も大量に存在する物質の1つです。氷結晶の成長や融解・昇華などは、気象や環境問題はもとより、宇宙での分子進化や、寒冷地で生物がいかにして凍死を免れるかなど、極めて幅広い現象を支配しています。
氷(固体)が水(液体)に浮くことから分かる通り、氷は大変特殊な性質を示します。そのため、雪や氷は我々の大変身近な物質でありながら、未だに多くの永年の謎が存在します。
我々は、様々な最先端の光学技術(顕微鏡や干渉計)を駆使することで、この謎に挑んでいます。現在は、雪・氷結晶の成長や、氷表面の水膜、氷と大気との相互作用などについて研究しています。
新しい現象を発見するためには、そのための研究道具から自作・開発する必要がある。これが我々のポリシーです。学生さんの研究テーマは、自身で自由に決めてもらっています。心より面白いと思うことでなければ、一生懸命研究に取り組めませんので。皆さんもうちの研究室で、一緒にワクワクと研究してみませんか。
1)雪の形の不思議(樹枝状成長はどのようにして起こるか):人工的に雪を簡単に作ることができます。水蒸気の量を色々と変えて、雪結晶の枝振りがどのように変わるか、それはなぜなのかを考えてみましょう。
2)寒い地域でしかできないかも知れませんが、毎日の気温と水蒸気圧と、氷の滑りやすさとの関係を調べてみましょう。氷の上で、決まった質量の重りを滑らせるのも良いかも知れません。
結晶は生きている その成長と形の変化のしくみ
黒田登志雄(サイエンス社)
自然界や身の周りの様々な固体は、「結晶」と呼ばれる状態で存在する。結晶の中には極めてたくさんの分子や原子が整然と並んでおり、いわばきっちり・整然と積みあげられた「積み木細工」のようである。
この本では、結晶の成長を理解するのに必要な基本知識が、簡単な文章で説明されている。数式も出てくるが、難しければ読み飛ばしても構わない。個々の分子や原子がどのように振る舞い、その結果どのようにして、まるで生き物の様に結晶が成長してゆくのか。その不思議を感じ取ってもらいたい。
科学の方法
中谷宇吉郎(岩波新書)
世界で初めて人工的に雪の結晶を成長させることに成功した、中谷宇吉郎先生のエッセイ集。中谷先生は、明治・大正・昭和の時代に活躍された物理学者で、結晶成長学、氷河学などいくつもの研究分野の開祖となった人だ。
難しいことに難しく取り組むのではなく、いかに本質的な事柄を見抜いて平易に語ってみせるのか?このことこそが科学の醍醐味であると、平易な文章で生き生きと語られる。エッセイストとしても卓越しており、科学者としてのものの見方を教えてくれる。
柿の種
寺田寅彦(岩波文庫)
卓越した物理学者であった寺田寅彦のエッセイ集。俳句雑誌「渋柿」の巻頭に掲載された随筆を1冊にまとめたもので、寺田寅彦の科学に対する濁りのない澄んだ考え方が、良く伝わってくる。そして寺田寅彦の興味は科学のみならず、詩歌や芸術にいたるまで縦横無尽に飛び回る。高校生だけでなく、若手の科学者にもぜひ読んでほしい。
本多光太郎傳
石川悌次郎(日刊工業新聞社)
様々な磁石や鉄鋼材料の生みの親である、本多光太郎先生の伝記。本多先生はとにかく努力の人で、この本を読むと「よし、自分にもできるかもしれない、自分もやってみよう」という力がみなぎってくる。
Q1.大学時代の部活・サークルは?
オーディオ・クラブというものに入っていました。電気工作は得意です。
Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
地方への競馬新聞の運び屋
Q3.研究以外で楽しいことは?
スキーに狂っています。シーズン滑走日数は80日以上。研究が雪と氷ですから、雪山で板を使って摩擦係数を測っています。