Q1.大学時代の部活・サークルは?
テニスサークルです。妻はサークルの後輩です。
最先端研究を訪ねて
【遺伝・染色体動態】
動く遺伝子
DNA上の配列を変える、謎の「動く遺伝子」!その仕組みと進化の原因の解明へ
伊藤秀臣先生
北海道大学
理学部 生物科学科 生物学(生命科学院 生命科学専攻)
◆着想のきっかけは何ですか
生命の設計図であるDNAの中を動き回り、その配列を変えることができる、不思議な遺伝子が存在します。この謎の遺伝子を「トランスポゾン(動く遺伝子)」と言います。
トランスポゾンの数・割合は生物によってまちまちであり、全遺伝子の数%から80%近くまでと、ばらつきがあります。時としてこの動く遺伝子は、活性化し動き回ることで、ゲノムの構造さえ変えてしまいます。
トランスポゾンは、DNA配列を変化させることで突然変異の原因となり、生物の進化を促進してきたと考えられています。しかしこの活性化がいつ、どのようにして起こるのか、未解明な点が多く残されていました。私は、その原因の1つが環境ストレスにあるのでないかと考えました。
◆どんなことがわかりましたか
シロイヌナズナを用いて、トランスポゾンの活性化を調べました。発芽後1週間の幼苗に対し、室温を37℃まで上げてみました。こうした高温ストレスを与えてみたところ、トランスポゾンの転写活性が高まっていることがわかりました。
そこで私は、このシロイヌナズナを育て上げ、花を咲かせ、その種をまいて次世代を作り、そのゲノムも調べてみました。すると、このトランスポゾンの転移が検出されました。親から子へ、トランスポゾンによって変化した遺伝子が転移し、受け継がれているわけです。
このようなことから、環境の変化が植物の進化に影響があることを証明できました。こうした遺伝子の変異が受け継がれることで、高温に耐えられる植物が誕生するケースもあるでしょう。
◆今後の目標は何ですか
このトランスポゾンが、高温にすると活性化する仕組みをどのように獲得したのか、その理由はまだわかっていません。今後は、環境ストレスで活性化するトランスポゾンの起源を突き止めたいと思っています。
また、このようなトランスポゾンを人工的に活性化することによって、農業への応用を可能にし、環境ストレスに強い植物を作り出したいと考えています。
「厳しい環境でも育てることができる作物を作る技術開発」
自然界の厳しい環境でも生育している植物に注目(自然界に存在するスーパー遺伝資源の発掘)。自然界には、まだまだ私たちの知らない魅力的な能力を持つ植物がたくさんあります。
今回私たちが見つけた高温で活性化するトランスポゾンは、モデル植物のシロイヌナズナで発見された動く遺伝子ですが、同じアブラナ科の植物のキャベツやブロッコリー、菜の花などにも見つかっています。こうした役に立つ遺伝資源の発見は、SDGsに貢献できる大変魅力的な研究だと思います。
「持続可能な農業を可能にする」
遺伝子組み換え作物が我々人間に与える影響について世界的に議論されていますが、忘れてはいけないもう1つの問題が、環境に対する影響です。
遺伝子組み換え植物の花粉が外へ飛散してしまうと、もともとあった生態系を破壊してしまうかも知れません。このような遺伝子組み換え植物を用いない品種改良技術として、植物自らに備わったトランスポゾンを用いた品種改良技術の確立を目指しています。
私が常に大切にしていることは、人生の経験値をアップさせることです。やるかやらないか迷ったら、まずはやってみよう!をモットーに、大学院博士課程1年生でアメリカのウィスコンシン大学に留学し、2年間研究を行いました。
日本の大学との違いを知り、同じ年頃の学生たちと出会ったことは、大変貴重な経験になりました。その時の経験は、今でも生かされています。留学当時の友人とは、今でも連絡を取り合う仲ですし、共同研究などで交流する機会もあります。
トランスポゾンは様々な生物に広く存在し、ゲノム構造の主たる構成要素となっています。このことは、環境ストレスによって活性化されたトランスポゾンの配列が、ゲノム構造の変化や、遺伝子発現の変化をもたらすことを意味します。その結果、生物種に多様性を生み、環境適応能力を獲得した個体を作り上げてきたと考えることができます。
私たちは、環境ストレスが植物に与える影響について「ゲノム構造の変化と環境適応」という側面からアプローチしています。そして、実際にこの仮説を検証するために、植物においてストレス条件下で活性化するようなトランスポゾンと、それを制御する宿主側の遺伝子の解析を行っています。また、そのようなトランスポゾンを用いた品種改良などの応用研究も行なっています。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者(公務員)
◆主な就職先・進学先
ソフトウェア開発、フラワーヒルズ株式会社、トヨタネ株式会社、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻進学、リフォームコンサルタント、旭川市役所職員、アボットジャパン株式会社、札幌市役所職員、株式会社NTTデータ、株式会社ムトウ
◆学んだことはどう生きる?
卒業生より:「今は営業なので研究職とは一見真逆の職種ですが、シナリオ(仮説)を立てて上司・同僚と議論を重ね交渉(実験)を重ね進めていく仕事のやり方は、研究室で過ごした3年間の経験がベースになってます。医療系営業なので知識的なことはもちろん、文献講読で鍛えられたことも非常に役立ってます。」
理学研究院・生物科学部門では、分子から細胞、動植物個体の発生や環境適応、脳・認知・行動に渡る生物学の研究を、基礎的な視点から行っています。また、社会的要請も視野に入れた生物学研究も行っています。
理学研究院・自然史科学部門は、生物の系統関係や進化の研究をしています。また、地球環境科学研究院・環境生物科学部門では主に環境科学的観点から、理学研究院附属ゲノムダイナミクス研究センターでは主として遺伝学的観点から、生物学の研究を行っています。
さらに、北方生物圏フィールド科学センターに属する2つの臨海実験所等では、海棲生物の研究を行っています。
1.花や葉の斑入り模様は、実はトランスポゾンが原因である場合が多いです。身の回りにある植物の模様を調べ、トランスポゾンとの因果関係を調べてみよう。
2.モデル植物として、世界中の研究者が使っているシロイヌナズナ。実はとても身近な植物で、道端にも自生しています。シロイヌナズナがなぜ世界中の科学者によって研究されているのか、シロイヌナズナの特徴や実験に用いる際の利点を調べてみよう。
利己的な遺伝子
リチャード・ドーキンス(紀伊國屋書店)
動物や人間社会にある親子の対立や保護、オスとメス(夫婦)の争い、攻撃や縄張り行動などがどのように進化していったのかを、「動物や人間ではなく、遺伝子が自分のコピーを残すため」すなわち「遺伝子の利己性」という観点から鮮やかに描き出した本。
本書は世界中に大きな衝撃を与え、思想界や教育界を巻きこんでの大論争となった。著者のもとに「血も涙もないメッセージに悩まされて、3日眠れなかった」「この本を読んだ1人の女子生徒が、人生は虚しく目的のないものだと思い込み、泣きついてきた」といった意見が寄せられたのは、その象徴的なエピソードだ。
こうした反応は、当然かも知れない。なぜなら、人の死生観を揺るがすような力が、本書にあるからである。
生命科学者になるための10か条
柳田充弘(羊土社)
分子生物学者であり、科学政策などに対する論客でもある元京都大学・柳田充弘先生による、生命科学者を目指す人へのガイダンス書。研究者として、研究していくとはどういうことなのか。仕事として、どんなことをしていくのか。どんな問題に直面することになるのか。これらを「研究者の先輩の話を聴く」というイメージで読み進めることができる。
Q1.大学時代の部活・サークルは?
テニスサークルです。妻はサークルの後輩です。
Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
会場設営のアルバイトをしていて、様々な有名アーティストに会うことができました。
Q3.研究以外で楽しいことは?
スキーの指導員の資格取得を目指しています。