Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
人間科学(宗教・哲学・心理学)
最先端研究を訪ねて
【生物物理・化学物理・ソフトマターの物理】
粉体物理
粉体の物理学の不思議と未解明を解き明かし、地球惑星の現象理解へつなぐ
桂木洋光先生
大阪大学
理学部 物理学科(理学研究科 宇宙地球科学専攻)
◆どのように研究を着想しましたか
もともと、ガラスのような固くてもろい材料の壊れ方を研究していましたが、より柔らかい粉状の物質の特性や、その衝突現象に関心を持ちました。この「粉体物理」こそ、クレーターの形成や宇宙ダストからできる惑星系形成の解明のカギを握ると考え、この研究をスタートしました。
◆具体的にどのような研究ですか
砂に鉄球を落とすと、鉄球はどのくらい沈むのか。実はこんな簡単そうな問いに、最近まで誰も答えられませんでした。そんな砂をめぐる物理学が、私の主な研究対象です。砂などが関わる運動の方程式やモデルを、実験に基づいて作っています。
例えば、水滴を砂に落とすと、クレーターが形成される現象があります。どのような条件で、どのような形のクレーターが作られるのか、実験を系統立てて行い、これまでの常識では考えられないようなクレーター形状をいくつか発見しました。このような未解明現象の物理を解き明かすことによって、まだまだ分からない惑星、そして宇宙の理解を深めることにも繋がっていきます。
◆その研究が進むことで何を目指していますか
地球惑星現象の解明以外にも、粉は、地盤工学や薬の製剤、材料加工などの様々な工学分野にも役立つはずです。しかし、今までその物理的な性質は、十分には解明されていません。各人の経験や勘による、その場しのぎ的な問題解決に頼っているのが現状です。
まずは、粉をめぐる運動の性質を正しく理解することが、最も大切だと考えています。そのため、急がば回れの精神で、粉の基礎的な物理特性を解明することに立ち戻った研究を目指しています。
理学研究分野なので直接SDGsに役立つことは難しいですが、私が主に扱っている粉体状材料は、産業の至るところで用いられています。そのため、粉体材料を効率的に扱う技術を開発することができれば、産業における技術革新に繋げられる可能性があります。
中学時代に「生活ノート」という日記のようなものを、毎日担任の先生に提出することとなっていました。その自由記述欄に何かを書くことが最初は面倒だったのですが、中3の最後の頃になると、このノートに数学の問題を解くうちに自分で見つけた法則や、宗教や平等・公平の概念などに関する独自の考えをかなりの分量書くようになっていました(恐らく今見ると恥ずかしくなるような考えなども書いていたんだと思いますが)。それを担任の先生も受け止めて、コメントしてくれていたことを記憶しています。
当時はあまり意識していませんでしたが、振り返ってみるとこのやりとりが「自分で考える」ことの原体験だったのかも知れません。問題を解く技術を磨くことも大切ですが、その上にどのようなことを考えるかということが、研究という活動では大切です。(その考えが独りよがりとならないように、伝えて議論するための技術習得も重要ですが、それは「きっかけ」とはまた別の問題です。)
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「17.化学・化学工学」の「67.物理化学、分子デバイス化学(液晶、光触媒等)」
粉体を中心としたソフトマター現象の実験的研究を行い、その基礎物理特性の解明と地球惑星現象、環境現象への応用を主なテーマとして研究を行っています。研究テーマには「振動による砂山崩壊の物理」や「粉体斜面への斜め衝突現象の理解」などがあります。さらに「片栗粉と水を混ぜた系で起こる衝突による液体の急激な固体化現象の理解」や「微小重力下での微小ダストの衝突力学」なども研究テーマにしています。
また、研究テーマの設定では、学生にまず「自分の人生の目標」を再確認してもらい、その目標を意識して、そこから具体的な研究テーマを徹底的に議論してあぶり出すよう、努力しています。
◆主な業種
・システム開発、ものづくりなど
◆主な職種
・技術系
◆学んだことはどう生きる?
基本的に理学研究分野なので、卒業研究や修士研究の内容が、直接的に就職後に役立つことは少ないと思います。むしろ、在学中に得たわずかな専門性だけを頼りに卒業後の展開を考えるようでは、視野狭窄になると考えています。学生が将来的に、自ら考え、実行し、責任を取れる人材となってもらうことが、大切な教育要素と考えています。
一方、理系の学部・大学院なので、技術的な知識や手法なども、もちろん習得してもらいます。ただし、それについても、表面的に特定の技術要素を経験するだけでなく、その手法の原理等の理解を努めてもらうことにより、就職後に様々な技術に触れた際に、それらをいち早く習得する勘を養ってもらうよう、意識して努めています。
身近な現象の基礎物理を解明することにより、宇宙・地球レベルの大きな現象についての理解を深めることや、産業プロセスの効率化などに資することができる知見を得たいと考えています。ただし、実際に役に立つ研究を行うことは簡単なことではなく、常に知的好奇心を持って、不思議な現象の本質を理解したいという思いで研究しています。
・固体のブロックを床の上で滑らせようとすると摩擦力がかかります。このとき、接触界面に粉体が存在すると摩擦の性質(滑らせるために必要な力)が変化します。粉体の種類や状態(水を混ぜるなど)によって摩擦力がどのように変化するかを調べてみると面白いかもしれません。
・砂漠の砂や穀物などの典型的な粉体の他に、細粒の粉や群衆挙動など広い意味で粉体とみなせるものはいろいろなところにあります。これら様々な粉体の構成粒子間の力の働き方などが、その種類やサイズによってどのように変化するかを系統的に調べると、何か面白いことが見えてくるかもしれません。
・月や小惑星などの固体天体は砂粒で表面が覆われていることが多く、その表面には様々な不思議地形を見つけることができます。不思議な地形を探し当てて、その地形が生じるメカニズムを考えてみると面白いかもしれません。
砂時計の七不思議 粉粒体の動力学
田口善弘(中公新書)
砂時計の砂や土砂、雪、小豆、さらには人や車の流れまで、様々な「粒」の集合を「粉粒体」という。これらが、流れ落ちる、吹き飛ばされる、かき混ぜられる、吹き上げられる、ゆすられるなどの過程によって引き起こされる面白い物理現象について、一般向けに分かりやすく説明している。粉粒体現象の本質は現在も未解明なことが多い。粉粒体の、そして物理学の面白さを知ることができる。
異貌の科学者
小山慶太(丸善)
ちょっと変わった4人の科学者の伝記。水素や水が合成物であることを発見し、死後に、クーロンの法則やオームの法則を実は独自に発見していたことが分かった、人嫌い貴族のキャヴェンディッシュ。熱力学第二法則の発見や絶対温度の導入など、古典的な熱力学の発展に貢献したケルヴィン卿。量子力学の基礎確立に業績を残した寡黙な科学者ディラック。物理学者であるとともに、恐竜の隕石衝突による絶滅説を提唱したアルヴァレズ。人物に触れると科学が物語となり、科学の魅力が倍増する。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
人間科学(宗教・哲学・心理学)
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『ライフ・イズ・ビューティフル』
Q3.研究以外で楽しいことは?
小動物とのふれあい