最先端研究を訪ねて


【刑事法学】

少年に対する刑事処分

感情に流されない冷静な刑事罰を制定するために

本庄武先生

 

一橋大学

法学部 法律学科(法学研究科 法学・国際関係専攻)

 

これまでに執筆や編集に携わった書物です。研究や教育の成果を取りまとめて書物を刊行すると、見ず知らずの人にも手に取ってもらい、思索の結果を伝えることができます。書物の刊行は、研究の社会的意義と研究者の社会的責任を実感できる場面です。
これまでに執筆や編集に携わった書物です。研究や教育の成果を取りまとめて書物を刊行すると、見ず知らずの人にも手に取ってもらい、思索の結果を伝えることができます。書物の刊行は、研究の社会的意義と研究者の社会的責任を実感できる場面です。

 

◆先生のご研究内容と、その研究に着手されたきっかけを教えてください

 

少年に対する刑事処分の在り方について、研究しています。研究を始めた当時、少年法が大きく改正され、少年に対する厳罰化が大きな社会問題になっていたためです。どのような場合に少年を刑事裁判にかけるべきか、少年に対する刑罰は大人に対するものとどう異なるのか、さらに少年年齢引下げの問題にも取り組んでいます。

 

 

◆少年に対する厳罰にはどのような問題があるのでしょうか

 

少年に対しては刑事処分を科す場合であっても、少年法の理念である「健全育成」を踏まえなければならないことになっています。苦痛を付与することを本質とする刑事罰を科すことと、少年の成長発達の可能性に期待して立ち直りを支援することとの間には、両立し得ない深刻な対立があるのです。

 

刑事罰を科すとしても、少年の成長発達への弊害をなるべく少なくするために、成人とは異なる基準を設けなければなりません。少年に対する刑事処分が持つ意義と問題点を明らかにすることで、感情に流されず、冷静に議論することが可能になります。少年法の存在意義に光を当てることにもつながっていきます。

 

◆どのような研究アプローチをとっていますか

 

伝統的な法学研究の方法論に基づいて、過去の先行研究の到達点を明らかにし、不十分な点を考え、それに対し、憲法や国際人権法が依拠する「子どもの権利」という観点からの分析を加えていきました。また、具体的な事件について、裁判例を検討したり、実際に裁判に関わった人にインタビューすることも行っています。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

日本社会は、罪を犯した人に対して厳しい社会です。刑務所からの出所者等には、制度上の障壁という目に見えるバリアと、偏見という見えないバリアがあります。ようやくそのことが自覚され、国でも再犯防止の取組みに力を入れているところです。

 

刑事政策学の知見を活用し、既存の福祉や医療などの制度を、出所者等の存在を意識したものへと変えつつ、かといって、それらの人への偏見を固定化しないための方策を検討します。

 


 この道に進んだきっかけ

中学・高校時代は、アフリカの飢餓救済のためのチャリティーソング「We Are The World」(USA for Africa)が流行っていたりしたことに影響され、南北格差などの国際的な問題を解決することに携われたらと思っていました。日本はバブル時代で、国内に解決すべき問題はないように感じていたと思います。

 

そこで、国際政治を学ぼうと法学部に入ったのですが、入学後に授業を受ける中で、国内にも解決すべき問題がたくさんあること、法律はそうした問題を解決するための武器になることを知りました。

 

中でも、死刑になるような犯罪をする人は、すべからく不幸な生い立ちを経験しているのはなぜなのか、と情熱的に問いかけてくれた恩師と出会えたお陰で、刑事法の研究を志すようになりました。

 


 この分野はどこで学べる?

「刑事法学」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

18.社会・法・国際・経済」の「73.法律学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 学生はどんな研究を?

刑事法学全般を取り扱っています。個々の問題関心に応じて、刑法の解釈論や刑事政策上の課題に取り組んでいます。具体的に、ゼミ所属学生の卒業論文のテーマをご紹介すると、大麻使用罪の是非、死体遺棄、医行為の刑事規制、スポーツ事故と刑法、GPS捜査、自由意志と他行為可能性、ストーカー規制、犯罪被害者報道、自招侵害、死刑存廃論、原因において自由な行為、法的制裁と社会的制裁、期待可能性などです。

 

社会や裁判実務で今まさに問題になっていることを意識的に取り上げて、その問題について自らの態度決定を行い、一定の意見表明をできるようになることを目指しています。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・法律・会計・司法書士・特許等事務所等

・金融・保険・証券・ファイナンシャル

・商社・卸・輸入

・官庁、自治体、公的法人、国際機関等

 

◆主な職種

 

・法務、知的財産・特許、その他司法業務専門職

・経理・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職

・営業、営業企画、事業統括

  

◆学んだことはどう生きる? 

 

裁判官、検察官、刑事事件を専門とする弁護士、法務省における犯罪者処遇の担い手として活躍している人が、それぞれ複数います。法曹としてビジネス分野で活躍する場合や、一般企業に就職する場合、ゼミで学んだ知識を直接業務に役立てる場面はないと思われますが、ゼミで意識している厳密な理論的考察や、社会を分析する視点は汎用性の高いものですので、何らかの形で業務に活きているものと思われます。

 


 先生からひとこと

一橋大学法学部・法学研究科での刑事法教育は、多様性に富んでいます。高度に理論的な問題も、実践性の強い実務的問題も学べます。扱われている分野は、刑法や刑事訴訟法といったどこの法学部でも扱われている内容に限らず、少年法や刑事政策といった応用的領域もカバーしており、学際的な研究も多く取り組まれています。実務との交流も盛んです。様々な問題関心に応えられる教育内容を誇っていると自負しています。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

インターネット上で公開されている犯罪白書を手掛かりに、少年非行や高齢者犯罪などの特定の犯罪類型について、その動向やどのような処分が課されているかを調べてみましょう。そのうえで、実際に起きた事件を素材に、事件の原因を探るとともにあるべき対応策について検討してみましょう。

 

◆犯罪白書:https://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html

 


 中高生におすすめ

死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの

堀川惠子(講談社文庫)

19歳の少年が日本列島を縦断しながら4人を次々に射殺した「永山事件」(1968年)。第一審、控訴審、差し戻し審と裁判が進む中、死刑、無期懲役、死刑と裁判所の判断が揺れた。

 

本書には、この事件に携わった人たちがどのような思いを抱いていたのか、こんなに凶悪な事件で、なぜ死刑の判決を出さなかった裁判官がいたのか、被告人の心境がどのように変化していったのかが描かれている。少年事件や死刑制度のあり方について考える上での、必読の書。同じ著者の『永山則夫―封印された鑑定記録』も併せて読んでほしい。



〈刑務所〉で盲導犬を育てる

大塚敦子(岩波ジュニア新書)

盲導犬飼育によって、犯罪者は立ち直れるのか。犬に受刑者たちが助けられ、変えられていく。2009年、日本で初めて、刑務所で盲導犬候補の子犬を育てる試みが始まった。動物との絆の可能性、人生を根本的に生き直すとはどういうことか。犯罪者であっても、決して私たちと変わらない存在であることに気づく一冊。なぜ犯罪を犯す人がいるのか、理解できない人におすすめ。



氷点

三浦綾子(角川文庫)

妻の不倫中に娘を殺害された医師が、妻への復讐として、殺人犯の娘を養子として迎える衝撃のストーリー。誰もがもっている愛、憎しみ、赦しという人間の根源的な感情があぶりだされる。人間は合理的な思考では割りきれない複雑な存在であることに気づかせてくれる。それでいて絶望的な出来事があっても、人は乗り越えられる希望を見せてくれる作品。



 先生に一問一答

Q1.大学時代の部活・サークルは?

合唱部にいました。上手に演奏できた時のゾクゾクした感覚は特有のものでした。

 

Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 塾講師をしていたおかげで、教えることが割と好きになりました。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

山歩き。雄大な自然に触れ合う喜びは、なにものにも代えがたいものです。